原作『峠』はこんな物語
まずは原作を軽く紹介。
『峠』は越後国長岡藩という小さな藩の家老・河井継之助を主人公にした司馬遼太郎による長編時代小説。1966年11月から1968年5月まで『毎日新聞』にて連載されました。それまで全国的にはほぼ無名だった河井継之助の名を一躍世に知らしめるようになった作品で、河井継之助のイメージといえば『峠』に描かれている人物像というくらい大きな影響力を与えました。
文庫版で上中下とまあまあ長いのですが、司馬遼太郎作品の中では珍しくはない長さ。幕末の有名人が総出演しており読み応えも満足度も300%なので、ぜひこの機会に。
映画『峠 最後のサムライ』では継之助が総指揮官を務めた戊辰戦争最大の激戦ともいわれる「北越戦争」を中心に描かれるそう。5000人規模のエキストラを使うという噂も。
ちなみに河井継之助の読みかたですが、「つぐのすけ」と「つぎのすけ」のどちらも耳にしますが、「つぎのすけ」が正解のようです。
さて、今回メガホンをとるのは小泉堯史(たかし)監督。脚本も担当されています。
小泉監督は巨匠・黒澤明監督の愛弟子であり、『博士の愛した数式』や『蜩(ひぐらし)ノ記』など数々の名作を手がけています。
ではまず、主人公である長岡藩家老・河井継之助。
とても意志の強そうな顔をしています。
継之助は低い身分の出ながら己の才覚で家老の座にまで出世し、幕末の動乱期に長岡藩の自立と存亡をかけ必死に戦った人物です。
明治という新時代に向け衝突必至の明治新政府軍と旧幕府軍。日本中の藩がどちらにつくか態度を迫られるなか、継之助は武力をもって中立の立場を得る、という無謀とも思える挑戦を本気で実現しようとします。
その証拠に、継之助は幕府が瓦解し戊辰戦争が開始されるや、江戸にある長岡藩邸の家財を全部売っぱらって、その資金でまだ日本に3台しかなかった最新兵器・ガトリング砲を2台購入します。
つまり、超最新兵器を、東京とか出し抜いて新潟県がほぼ独占しているという状況…!
まさに幕府と明治新政府を両にらみするための圧倒的な火力。事実、北越戦争では自らガトリング砲をぶっ放し、数で圧倒する新政府軍を苦しめました。
さて、愛する長岡藩のため最後まで戦い抜いた悲劇の英雄・河井継之助を演じるのは誰か?
それは大ベテランのこの方。
役所広司。
日本を代表する名優のひとり。
写真は『峠』撮影中の姿です。さすがにお似合いですね〜。
役所広司と小泉監督は『蜩ノ記』でもタッグを組んでいますので、息もぴったりなようです。
役所広司に不満はないのですが、42歳で没した河井継之助を63歳の役所さんが演じるのか……という気持ちはぶっちゃけあります。
古参の家臣から「若造が!」となめられていた継之助ですが、役所広司が演じるとむしろ誰も口ごたえできないオーラが……。
お次は、継之助の妻・おすが。
無鉄砲とも思える行動ばかりする夫の継之助を信じ、最後まで支え続ける女性です。
そんなおすがを演じるのはこの方。
松たか子。
こちらも日本を代表する女優さんのひとり、松たか子です。
最近ではホラー映画『来る』の最強霊媒師役のインパクトが凄かったですが、今回は180度違うタイプの女性を演じるようです。
お次は、河井継之助を登用し藩の命運を託した長岡藩11代藩主・牧野忠恭(まきのただゆき)です。
京都所司代や幕府老中といった幕府の重要ポストも務めた人で、28歳とまだ若かった継之助に藩政改革という一大プロジェクトを一任した器の大きな人物です。
継之助のよき理解者で後ろ盾でもあった牧野の殿様を演じるのはこの方。
仲代達矢。
ベテランどころの騒ぎじゃない86歳。
渋い。渋すぎる。それにしても、ものすごい強力なバックアップをしてくれそう感があります。
さて、時代の先を行く考え方とハンパない行動力から藩内に反対派も多かった継之助。そんな継之助の父親を演じるのはこの方。
田中泯。
またしても大ベテランの田中泯です。
濃いな〜。
田中さんといえば、大河ドラマ『龍馬伝』の吉田東洋役が印象的でしたね(そしてもう9年前という衝撃の事実)。
お次は、継之助の盟友であり藩政改革のブレーンとしても活躍した長岡藩の藩医・小山良運こと小山善元(ぜんげん)。
小説『峠』では継之助の親友として活躍しているので、映画でも重要な役どころになると予想される良運を演じるのはこの方。
佐々木蔵之介。
ドラマや映画でひっぱりだこ。
京都の老舗酒造の息子さんなだけあっていくつになっても美肌ですね〜。2020年は大河ドラマ『麒麟がくる』で藤吉郎(豊臣秀吉)役での出演が決定しているなど、大作時代劇の出演が続きます。
続きましては、継之助の幼馴染で継之助とともに長岡藩のために尽力した藩士・川島億二郎。
北越戦争後は、戦争で疲弊した長岡の復興と再生、近代化のために生涯を捧げました。
長岡の隠れた偉人・億二郎を演じるのはこの方。
榎木孝明。
品格の俳優。
誠実な人柄の億二郎になる予感がします。
ものすごっく余談ですが、数々の人が演じた探偵・浅見光彦のなかでもやっぱり榎木さんの浅見光彦が一番好きです。余談終わり。
次は新政府軍の監察を務めた土佐藩士・岩村精一郎(のち高俊)。
北越戦争開戦のきっかけともなった「小千谷(おじや)会談」において、河井継之助と対談した相手です。
この時、継之助は岩村に対し「会津藩を説得するから長岡攻撃は待ってほしい」という嘆願を行ったのですが、まだ若かったこともあり岩村は継之助を「小藩の家老ごときが」と侮りこの嘆願を一蹴します。結果、新政府軍と長岡藩による凄惨な戦いが勃発することになるのです。
作中おそらく敵役として重要な役割を担う岩村を演じるのはこの方。
吉岡秀隆。
え? めっちゃ継之助の話聞いてくれそう。戦争とかすごく嫌いそう。むしろ戦争で負傷した人の治療してくれそうです。
いい人イメージが強い吉岡さんがどんな岩村を演じるのか楽しみです。しかしやはり年齢が……岩村この時24歳なんだよな……うん。
ラストは“最後の将軍”徳川慶喜。
徳川幕府15代将軍・慶喜は“家康公の再来”と敵味方から恐れられるほどの頭脳と才覚を持ちながら、切れすぎる頭脳ゆえに徳川幕府の長い歴史に幕を下ろした人物です。
旧幕府軍の総大将でありながら大坂城からわずかな供を連れて敵前逃亡したため、味方からも猛バッシングを受け、なんなら150年経った現代でもまだバッシングされています。でも、慶喜には慶喜の考えがあったわけで(泣)。
そんな慶喜公を演じるのはこの方。
東出昌大。
スタイル抜群!歴史と落語を愛してます。
爽やか系からサイコパスまで幅広い役をこなす東出さん、大作時代劇『関ヶ原』では小早川秀秋を、2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』では久坂玄瑞を演じるなど時代劇の経験もばっちりなので楽しみです。
いやぁ、豪華な顔ぶれ!
司馬遼太郎の傑作の初映画化なだけに期待が高まる映画『峠 最後のサムライ』、今後発表される新キャストも楽しみです!