月岡芳年の傑作美人画『風俗三十二相』をすべて紹介

一瞬の表情に目を奪われる! 最後の浮世絵師が描く「32人の美女」にため息が出る

カテゴリ> 浮世絵, 美人・イケメン, 芸術

幕末から明治という激動の時代、鋭い感性と独創性あふれる構図によって多くの傑作を生み出した「最後の浮世絵師」月岡芳年(つきおかよしとし)。変わりゆく時代を生きた女性たちのリアルな表情を32のテーマで切り取った傑作シリーズ『風俗三十二相』をご紹介。


『風俗三十二相』の目次。こぼれ落ちるように咲き乱れる花が美しい。目次なのにめちゃくちゃ美しい。目次ってレベルじゃないぞ

『風俗三十二相』とはどんな作品?

今回ご紹介する『風俗三十二相』とは、1888年(明治21年)に刊行された月岡芳年晩年の傑作美人画シリーズ。「三十二相」というのは、仏さまのすばらしい32の身体的特徴を数えた仏教用語のことですが、芳年は仏さまではなく32人の女性たちのすばらしい表情を描きました。遊女からおかみさんまで身分も職業もバラバラなうえ、江戸時代後期から明治までと女性たちのファッションもさまざまなのが特徴です。

では全32点をさっそく紹介します。どうぞ!

猫の迷惑顔が秀逸


『うるささう 寛政年間処女之風俗』(1888年/明治21年)
『風俗三十二相』シリーズで一番有名であろう1枚。真っ白な毛に映える赤い首輪がかわいらしいと、その猫をまさに猫かわいがりする少女。うれしそうな少女の表情に対し、猫はちょっと(だいぶ?)迷惑顔。「うるさいな…」という心の声が聞こえてくるようです。


こんな気の抜けた美人画見たことない


『しだらなささう 寛政年間京都芸子風俗』(1888年/明治21年)
「しだらない」とは「だらしない」という意味。描かれているのは京の芸者さん。完全に気が抜けています。こんなにだらしない美人画、お目にかかったことがない。あらぬ方に曲がった手首にだらしなさが集約されているよう。

愛ってイタイ


『いたさう 寛政年間女郎の風俗』(1888年/明治21年)
手にした手ぬぐいを噛み締め激痛に耐えるのは遊女。乱れ髪と眉根を寄せた表情が色っぽい。で、なにを痛がっているかというと、馴染み客の名前を腕に彫っているところなんです(起請彫/きしょうぼり)。

ぬくぬくな空気感


『あつたかさう 寛政年間町家後家の風俗』(1888年/明治21年)
後家さんが炬燵(こたつ)に入って読書中。どんな本を読んでいるんでしょうか。心なしか表情が色っぽいので、もしかしたら……。そして炬燵の上にはなんだか不思議な格好で猫が寝ています。

ビビッドな口紅にも注目


『ひんがよささう 享和年間官女之風俗』(1888年/明治21年)
赤・白・黒というシンプルな色で構成された画面からして上品。凛とした空気をまとうこの女性は「官女」という宮中や将軍家などに仕える女性です。まるで雛人形のような見目麗しさですが、その唇に注目。なんと下唇が緑色。ファンキー! これは江戸時代後期に流行した「笹色紅(ささいろべに)」と呼ばれる口元メイクで、紅を何度も塗り重ねて玉虫色に光らせるというメイク術でした。

生きているような煙


『けむさう 享和年間内室之風俗』(1888年/明治21年)
浴衣姿の女性が蚊遣火を炊いているところ。ですが、煙がすごいのなんのって。まるで命あるもののごとく女性に襲いかかっています。それにしても煙の表現がすごく斬新で、とても100年以上も昔の作品とは思えません。

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